日韓比較(1):大卒初任給―韓国の大卒初任給は本当に日本より高いのか?:研究員の眼

韓国経営者総協会が2014年11月に発表した「2014年賃金調整実態調査結果」によると、2014年における大卒初任給は278.4万ウォン(30.6万円(*1))
Karl Baron/Flickr

韓国経営者総協会が2014年11月に発表した「2014年賃金調整実態調査結果」によると、2014年における大卒初任給は、278.4万ウォン(30.6万円(*1))で、2013年の265.9万ウォン(29.2万円)に比べて4.7%も増加していることが明らかになった。これは、同時期における日本の大卒初任給20万400円を大きく上回る水準である。

なぜこのような現象が起きているだろうか。まず最も大きな要因の一つとして考えられるのが為替レートの急激な変化である。

2015 年 6 月 11 日現在、1 ウォン当たり0.11 円である為替レートは、3年前の2012 年 6 月 11 日には1 ウォン当たり0.07 円であり、2014年における韓国の大卒初任給を3年前の為替レートを基準に再計算すると、19.5万円で低下する。従って、現在の韓国の大卒初任給はウォン高の影響により過大評価されていると言えるだろう。

もう一つの要因としては、韓国経営者総協会が発表している大卒初任給には1年間の一時金が含まれている点である。

つまり、韓国の大卒初任給は1年間の一時金と12ヶ月の月給を合算したものを、月単位に再計算したものである。従って、一時金を含んでいない日本の大卒初任給と直接比較するのは無理があり、日本の大卒初任給にも一時金を反映して再計算すると、現在の金額よりは高くなることは明らかである。

また、韓国の大卒初任給は企業規模により大きな差があるので、上記の平均値が大学新卒者の初任給を代表する数値だとは言い難い。

大卒初任給を企業規模別にみると、従業員数1000人以上の企業が306.6万ウォン(33.7万円)であることに比べて、従業員数100~299人は242.9万ウォン(26.7万円)で、両グループの間に63.7万ウォン(7万円)の差が発生している。一方、日本の場合は大企業(20.3万円)と小企業(19.4万円)の差が9千円に過ぎない。

産業別にみても日本は大きな差がないことに比べて、韓国は金融保険業が314.1万ウォン(34.6万円)で建設業の261.5万ウォン(28.8万円)の間に大きな差(5.8万円)を見せている。

なぜ韓国では企業規模や産業によって初任給が大きく異なるだろうか。まず、最初の原因としては、前述した通り、韓国の大卒初任給は一時金を含めており、利益の出ている大企業ほど、より多くの一時金を提供している点が挙げられる。

二番目の原因としては韓国が日本とは異なり戦闘的性格が強い労働組合が存在している点である。中小企業に比べて大手企業を中心に設けられている労働組合は、企業に対して企業業績を反映したより高い初任給を要求することになり、労働組合のない中小企業との間で初任給の差が発生している可能性が高い。

三番目の原因としては、大企業がより優秀な人材を確保するために競争的に初任給を高く設定していることや労働供給が大手企業に集中していることが考えられる。

今まで説明したように、韓国における大卒初任給は、企業規模や産業により大きく異なっており、日本のように大学新卒者の初任給を代表する数値として使うことは難しいような気がする。さらに、韓国では、大卒初任給が正規職を基準にしており、大卒雇用者の約4割弱を占めている非正規職の初任給が反映されていないことを考慮すると、大学新卒者の間の賃金格差はさらに広がっているに違いない。

日本でも大企業と中小企業の間に大きな賃金格差が存在しているが、スタートの時点で韓国ほど大きな差は発生していない。スタートの時点から大きく異なる賃金体系は、将来社会全体の格差を広げ、健全な社会システムを崩壊させる要因になりえる。

韓国政府は中小企業に対する支援策を強化し、より競争力のある中小企業を育成する必要がある。それこそ大企業との大卒初任給や賃金格差を縮める解決策になるだろう。

日本は韓国ほど深刻ではないが、卒業して初めて就職した際の雇用形態が契約社員など非正規職である割合が増えている現状に対しては対策を講じる必要がある。

総務省の就業構造基本調査によると、「平成4年就業構造基本調査」(初職就業時期が1987年10月から1992年9月の間)では13.4%であった新卒者の非正規職比率が、「平成24年就業構造基本調査」(初職就業時期が2007年10月から2012年9月の間)では39.8%まで上昇している。

当然のことながら、日本でも非正規職と正規職との賃金格差は大きく、将来の格差拡大につながる恐れがある。

大卒初任給を含む若者の賃金格差問題に日韓両政府がどのような対策を実施するのか、今後の動きに注目するところである。

*1 為替レート 1 ウォン=0.11 円(2015 年 6 月 11 日現在)

関連レポート

(2015年6月16日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 准主任研究員

注目記事