インドの映画館で国歌演奏と起立を義務付け 裁判所が「国歌に敬意を示すように」と命じる

国歌が流れる52秒間、全員起立することを義務付ける。

ムンバイの映画館で並ぶ観客たち

インド最高裁は11月30日、映画館で上映が始まる前に必ず国歌を流し、その間スクリーンには国旗を映すこと、館内にいる人は国歌が流れる52秒間、全員起立することを義務付ける判決を出した。さらに、国歌を脚色したり商業利用することはできないとして、あらゆる「望ましくない」ものに国歌を印刷することも禁じた。

最高裁は、国歌に敬意を示すようにと命じた。これをきっかけに、法律で愛国心を強制できるのか、強制すべきなのかという議論がインドで巻き起こっている。しかし11月30日に出された判決は、原告が「何をもって国旗に敬意を示すことになるのか」について提訴したことに対する判断の1つに過ぎない。

最高裁が応じた今回の提訴は、「国歌を映画館で流すべきか」「映画を観に行く人は国歌が流れている間起立すべきか」だけではない。国内にある公共の場所で国歌が流れたとき、すべての市民はいつもどう振る舞うべきかも含まれている。

原告の申し立てによると、国歌が流れているとき人々はどう振る舞うべきか、何が国歌を侮辱・軽視するのか、従わない場合どんな罰を科すべきかについて厳しいガイドラインを設けるよう最高裁に求めている。

今回の命令は暫定的なもので最終的な判断ではない。インド中部ボーパール出身の元エンジニア(現在は退職)で原告のシャム・ナラヤン・チョークシー氏と弁護士のアビナヴ・スリヴァスタヴァ氏は、最高裁が自分たちの提起した問題すべてに応じることを期待している。

原告のシャム・ナラヤン・チョークシー氏

国歌に対して敬意を示そうというチョークシー氏の闘いは、彼が2001年にボリウッド映画の大ヒット作『家族の四季 -愛すれど遠く離れて-』の中で、ある少年が歌詞を忘れるシーンがきっかけだった。チョークシー氏は、映画の中で国歌が流れたとき、観客たちが立ち上がらなかったことに幻滅した。チョークシー氏が1人だけ立ち上がると、周囲からブーイングを浴びた。

チョークシー氏はジャバルプルにあるマディヤ・プラデーシュ高等裁判所に訴え、国歌が流れるシーンを削るまでこの映画を上映禁止にした。その後、最高裁は高等裁判所の映画を禁止するという判決を覆したが、審理で似たような事例が上がってくるまで問題を保留とした。

「愛国心は促進されるべきだ」と、スリヴァスタヴァ氏はハフィントンポスト・インド版に語った。「何をもって国歌に敬意を示していると言えるのか、何をもって国歌を侮辱することになるのかについて、法律に空白がある。ミクロレベルでは分かりにくいが、マクロレベルなら分かる。この国には何が必要なのか、ということだ」

チョークシー氏は申し立ての中で、最高裁が命令を下すか、少なくともガイドラインを出すべきだと主張している。インドで国歌を誤用し、軽視するものが何かを決める法律の条項が不足しているためだ。

1971年に制定された「国家名誉侮辱法」3条に記載されているのは、大きな音を立てたり侮辱するなどして国歌斉唱を邪魔したり妨害すると懲役3年か罰金、または両方が科されるということだけだ。申し立てでは、内務省による「国歌に関する命令」がただの通達にすぎず、この命令には「人々が厳密に従わなければいけないような法的な裏付けはない」と述べられている。

■ さらにどんなことが?

また原告は、国歌を突然流したり、理解していない人の前で歌ったり、人が起立できないような状況で演奏しないことも求めている。

さらに、ジャンムー・カシミール州を含むすべての公立・私立の学校で1日の始まりに国歌を演奏すること、中央・州政府に続く行動規範として用いることを求めている。

今回、彼の不満は映画だけにとどまらず、実社会で国旗を完全に侮辱していると感じたもの全てに向けられている。

申し立てには、例えば全国ジャナタ・ダル党のラルー・プラサード・ヤーダヴ党首と妻のラブリ・デヴィ氏が、2002年の共和国記念日に国旗が掲げられたとき、国歌が流れても起立しなかったことが記載されている。また、2015年のタミル・ナードゥ州主席大臣ジャヤラリタ氏の宣誓式で国歌が演奏されなかったことが挙げられた。チョークシー氏が特に嘆かわしく思ったのが、県長官が食べ物を出した紙皿に国歌と国旗が印刷されていたことだ。

チョークシー氏は、「国歌が一般市民だけでなく憲法上の立場を持つ高官からも侮辱されることが極めて多いという証拠だ」と申立書に記している。

「国歌を演奏したり歌うときに、従うべき基準が必要なのは明白だ。それがなければ広範囲に法的な意味を与えることになる」

チョークシー氏の申し立てに対する次回審理は、2017年2月14日に開かれる。

ハフィントンポスト・インド版より翻訳・加筆しました。

注目記事