ユニクロ・柳井氏がウイグル発言で失うものは何か。「ノーコメント」が悪手だった3つの理由

新疆ウイグル自治区での強制労働について「我々は政治的に中立だ」としてコメントしなかったユニクロ。中国という巨大なマーケットにおける経済成長と、人権のどちらを優先するのかーー。企業はどう対応すべきなのでしょうか。

中国の新疆ウイグル自治区をめぐる問題について、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が「人権問題というよりも政治問題であり、われわれは常に政治的に中立だ」としてコメントを控えたことが物議をかもしている。

4月8日の決算会見でのこの発言が報じられた後、翌9日の同社の株価は大きく値を下げ、終値は前日比マイナス3090円の8万7890円だった。

Yahoo!ファイナンスより、ファーストリテイリング社の株価の動き

新疆ウイグル自治区で採れる綿花は「新疆綿」と呼ばれ、高品質なことで知られているが、背後にウイグル族の強制労働という人権問題が存在することが指摘されている。

一方で、強制労働を批判したり新疆綿の使用を否定したりする企業の製品に対し、中国で不買運動などの反発も広がっている。

中国という巨大なマーケットにおける経済成長と、人権のどちらを優先するのかーー。

踏み絵を迫られるような状況の中で、企業はどう対応するべきなのだろうか。

「ビジネスと人権」の国際的な議論に詳しい佐藤暁子弁護士は、3つの理由から柳井氏が企業としてメッセージを説明すべきだったと指摘する。

記者会見するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長

①「政治的に中立だからコメントしない」は強制労働を追認するに等しい

NHKなどの報道によると、柳井氏は新疆ウイグル自治区から調達した綿花を使用しているかという記者の質問に対し、強制労働などの問題がある工場との取引は否定したうえで、「これは人権問題というよりも政治問題。われわれは政治的に中立なんで。これ以上発言する政治的になりますんで、ノーコメントとさせていただきます」と回答を控えたという。

改めて同社に取材を申し込んでも、「新疆の問題につきましては、現在国際的に政治問題化してしまっていることから、弊社として関連のご質問へのコメントは差し控えさせていただきたいと思います」と返事が返ってきた。

ユニクロの店舗(東京=2021年4月8日撮影)

 

佐藤暁子弁護士は「政治的だからノーコメントというのは論理的におかしい」と語る。

「企業として中国市場に出てサプライヤーと取引し、中国という社会のあり方の中にあるマーケットで活動して利益を得ているのなら、その社会で起きていることと無関係ではいられません」

「新疆ウイグル自治区で強制労働があることは、国際社会で一定の証拠を持って伝えられているのに、『中立だからコメントしない』というのは、強制労働がある現状を追認しているということになります」

佐藤暁子さん

②目先の中国の売り上げと引き換えに失うものがある

2020年3月にオーストラリアのシンクタンクが公開した調査報告では、ファーストリテイリング社を含む日本企業14社など少なくとも83のグローバル企業が、ウイグル族らを強制的に労働させている中国の工場と取引があったと名指しされた。

これを受けて同社は8月、問題がある工場との取引を否定するコメントを発表。一方で、ウイグル問題については「人権問題を懸念する各種報告書や報道については認識しています」という表現にとどめた。

同様に名指しされたナイキが、取引の否定に加えてウイグル族の強制労働に関して「懸念」を表明するまで踏み込んだのとは対照的だった。

企業がこうしたメッセージ発信を求められる背景には、ビジネス文脈での人権意識の高まりがある。欧米では、民間企業に対し、サプライチェーンなどで人権侵害が起きていないかを確認し是正することを求める「人権デューデリジェンス」が法制化される動きも広がっている。

また、新疆ウイグル自治区での問題は人権問題であると同時に、柳井氏が指摘するように国際的な政治問題でもある。

2021年3月には、EUが、アメリカ・イギリス・カナダと歩調を合わせるかたちで、中国高官らに資産凍結などの制裁を科した。

このような欧米の動きに合わせるのであれば、「政治問題なのでノーコメント」という同社のスタンスは悪手だ。ただ、中国という魅力的なマーケットを捨てきれない事情もある。

中国の北京にある三里屯のショッピングエリアにあるユニクロの店舗

4月8日の決算説明会で、柳井氏は今後の展望について「従来以上に本格的にアジアに進出していく。アジアで圧倒的にナンバーワンになる」と述べた。2020年9月〜2021年2月期の連結業績も、中国大陸市場で大幅な増収増益となっている。

だが、佐藤氏はこう指摘する。

「中国のマーケットはたしかに大きいが、それよりも自分たちの企業としての社会的価値をどう考えているのでしょうか。一時的に中国で売り上げが落ちても、長期的に見ればグローバルで投資家を失うリスクもある。単純に比較できるものではありません」

③「ステークホルダー」への説明責任

「地球上の全ての国、全ての個人はつながっています。自分さえよければという姿勢で自らの利益を守ることもできません。企業は社会的な存在です。社会があって初めて企業があります。世の中にとって良い企業、人々の役に立つ企業であればあるほど大きく成長する、そういう時代です」

決算説明会では、こうも語っていた柳井氏。

ファーストリテイリング社はサプライチェーンへのモニタリングや監査にも取り組み、2015年に取引先工場の労働環境の問題を国際人権NGOに指摘されてからは、透明性を高めるために主要縫製工場のリストを毎年公開している。

佐藤氏は「柳井さんの信念を貫いていただきたかった」と残念がる。

今や、企業のステークホルダーは、顧客や株主、従業員といった枠を超えて無限に広がっている。ウイグル問題に限らず、ミャンマーや香港でのデモ隊弾圧やBLM、気候危機…様々な社会問題について企業としてどう考え、どう向き合っているのか。その姿勢を世界が注視する時代だ。

「企業として中国市場で取引をして利益を得ている以上、ウイグル問題についてもステークホルダーに対しての説明責任があることを認識していただきたい。企業としてのメッセージ発信が、ステークホルダーとのコミュニケーションだからです」

「ファーストリテイリングは、グローバルにインパクトを与えている企業ですが、『ノーコメント』のままでは、それだけの影響力があるのに責任を果たしているとは言えません」