「オネエは裾野が広がりすぎてしまった」ブルボンヌとサムソン高橋が昨今のLGBT・ゲイシーンを語る

率直な思いを語りあった。
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東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。

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第6回のタイトルは「オネエとホモとLGBTとあなた」。ゲイコミュニティの中でも、それぞれの立場を異にする3名が、昨今のLGBT、特にゲイシーンについてどう感じているのか、率直な思いを語りあった。

登壇したのは、テレビ等でも活躍する女装パフォーマーのブルボンヌさん、著書も多数執筆している紀行ライターのサムソン高橋さん、そして、LGBTに関する啓発や当事者のコミュニティづくりを手がけているグッド・エイジング・エールズ代表の松中権さん。

参加者から3名に話してほしいワードを募集し、ランダムに選択。例えば「ホモ」といった言葉は差別的とされているが、なぜ差別的なのか、そもそもいつから使われるようになったのか、当事者があえて使い続ける理由はなにかなど、各々の考えを語った。

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左から松中権さん、ブルボンヌさん、サムソン高橋さん
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■裾野が広がりすぎた「オネエ」という言葉

ブルボンヌさんは「オネエ」というキャラクターで仕事をしているという立場から、その言葉について語った。

「もともとオネエという言葉は、ゲイシーンの中で女性性を表す言葉でした。例えばゲイバーで飲んでいるフェミニンな仕草の人がいると「あの人はオネエだ」みたいな」。

しかし、2006年あたりから放送されたバラエティ番組「おねえ★MANS」で、美容などのジャンルのプロフェッショナルなオネエを集めたことがきっかけで、一般に言葉が広がりはじめた。

「でも、そのときに巻き込まれたのがトランスの方で、女性性を笑わせるつもりがない人も、笑わせるためのキャッチーなキャラクターかのように「オネエ」と言われ、イメージに巻き込まれていってしまった。

最近も裾野が広がりすぎていて、女性的な表現をしていないゲイのこともオネエと言われるし、りゅうちぇるとか尾木ママとか、表現が女性的な異性愛の男性も言われてしまっていますよね」。

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■昔は「ホモ」と「ゲイ」のイメージは逆だった

松中さんから「ホモやゲイという言葉についてどう思っていますか」という問いに対し、サムソン高橋さんは「"ゲイ"はしゃらくさい」。

「70年代にゲイボーイという言葉あって、それは今でいう『オネエってぽい』というイメジがあった。むしろゲイとホモってイメージが逆だったんですよね」。

ゲイという言葉が使われるようになり「ゲイはみんなアートにうるさくて、ソフィスティケイテッドだみたいな感じに語られて、わたしは『サムソン』というゲイ雑誌出身なので、それに対するアンチテーゼで『ホモ』と25年間言い続けていました」。

松中さんは、初めてホモという言葉を知ったのは、昨年話題になった「保毛尾田保毛男」がきっかけだった。

「ホモという言葉はネガティブな印象だったので、そのときに『ゲイって素敵な言葉なんだ』と思いました」。

世代によって言葉の受け取り方は様々だ。

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「LGBTという言葉が、全てを包括して、便利かつクリーンっぽい言葉として使われてきたよね」と話すブルボンヌさん。

松中さんによると、LGBTが日本で使われはじめたのは2008年とか2009年あたり。ちょうど「オネエ★MANS」と時期が似ているという。また、登壇者の3名ともLGBTという言葉を頻繁に聞くようになったのはここ3〜4年だと話す。

ブルボンヌさんは「オネエというバラエティ向きな単語と、LGBTというアクティビズム向きの言葉が10年くらい前に花開いた感じなのね。全部の単語が、昔はそうでもない時期があったけど、最近はみそがつきはじめた部分もあるのかな」。

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■「保毛尾田保毛男」以降、潮目が変わった

松中さんが「ホモ」という言葉を知ったきっかけとなった「保毛尾田保毛男」についても話が及んだ。

(保毛尾田保毛男とは)フジテレビの番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」で、約30年前に人気だったとんねるず扮するキャラクター。昨年9月に放送された30年スペシャルで「保毛尾田保毛男」が再登場。LGBTについて認知が広がりつつある中、同性愛者を笑いのネタとして差別的に扱ったことに対して批判が起き炎上した。その後フジテレビ社長が公式に謝罪したが、当事者の中でも賛否は分かれた。

サムソンさんは、当事者の中でも保毛尾田保毛男を受け入れた人と受け入れられなかった人で意見が分かれているのを指摘した上で、「今の時代にひどいというのはわかるんだけど、あれを抹殺しちゃうのはちょっと寂しい。ただ、(松中)権ちゃんとか、40歳前後の人はちょうど第二次性徴期の頃で自分のアイデンティティが確立されていないときにあれを見たらそりゃ傷つくのかなと思う」。

ブルボンヌさんは「実は30年前では、当時ご存命だった岸田今日子さんが保毛尾田保毛男のお姉さん役で出てたの。コントのシリーズは幅広くて、その中で、いじめられるほもおちゃんをいつもお姉ちゃんが味方をして助けていた。

もちろん保毛尾田保毛男のキャラクターは嫌なステレオタイプを生むんだけど、現実(いじめなど)も実際あった時代に、それを描いた上でその人を守ってくれる家族も描いていて、コンテンツそのものがすごい害悪だったかというと、それは違う。だから、その部分は守りたかったかな」。

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「痛みを訴えるやりかたは社会運動論みたいな枠で考えたらいろんなやり方があると思う」と話すブルボンヌさん。

「(保毛尾田保毛男以降)ヤフコメとかで『またこいつらが文句言って』と潮目が変わってきたように感じます」と、対立が極端になってきたと感じている。

「怒ることはもちろん必要なんだけど、怒られて謝っている人を見た人が、謝っている人の味方になりたくなる反発の感情も生み出してしまうよね」。

保毛尾田保毛男の一件から、松中権さんらはフジテレビとの対話を進めた。それに関連して、ブルボンヌさんが出演した番組ではNGワードのリストが渡されたそう。

「そこに『ストレート』という言葉もダメと書いてあったの。当事者から『俺たちは曲がってんのか』と抗議があったからみたいなんだけど。

でも『まっすぐ』って全然良くなくない?くねったりとかいろいろ動いていった方が良いし、『まっすぐ』ってむしろちょっと小馬鹿にしている感じじゃんって思うんですよね。

ジャズとかで、センスがない人を『頭でっかち』みたいな意味で『スクエア』と言うんだけど、そういう風に引っ掛ければ、ストレートという言葉が必ずしも『良いまっすぐ』じゃないって、嫌味で返せると思うのよね」。

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■一年に一度くらい、一緒に集まっても良いんじゃないか

登壇者3名が異なるように、ゲイと呼ばれる人の中でもその立場や考え方は様々であり、LGBTともなると、それは尚のことだ。

イベントで最後に取り上げられたトピックは「パレード」。

irodoriは、LGBTやいろんな人が集う場を作りたいという気持ちで始まったコミュニティだが、同じように「東京レインボープライド」も、考え方や意見は違えど、1年に1度、多様な性のあり方を祝福する場として毎年開催されている。

今年は5月5日(土)、6日(日)に開催される東京レインボープライドのテーマは「LOVE & EQUALITY 〜全ての愛に平等を〜」だ。

以前は東京レインボープライドに少し懐疑的だったというサムソン高橋さん。

「昔はそうだったけど、今はもう、みんな1年に1日くらいは、一緒に集まっても良いんじゃないかと。LGBTと括ってはいるけどそれぞれ別ものだし、こういう場でこそみんなが繋がったら良いのではと思います」。

ブルボンヌさんは「ゲイとトランスでも、社会がこうなってほしいというテーマは別々なものもいっぱいあるように、みんな願いは違うし、当事者の中でももめることはよくある。

でも、この日だけはLGBTという言葉にカチンとくる気持ちを抑えていただいて、七夕みたいに思ってもらって、お互い巡りあうのも良いのではないかと思います」。

■irodoriクロージングイベント「カラフルトーク」過去のレポート