日本初の女性総理はどこにいる? 女性議員を苦しめる永田町の「本音と建前」

国会議員の女性比率が先進国最低レベルの日本。日本の女性が政治家になることを阻む壁は何なのか。現役の女性国会議員と議論しました。

「日本人初の女性総理は、きっともう、この世にいる。」

2007年3月の国際女性デーに、奈良新聞に掲載された全面広告だ。

その広告から13年後の2020年。国際女性デーに再び同紙に掲載された全面広告には、趣が一変したコピーが並んでいた。

「日本人初の女性総理は、え、まだ生まれてないんですか。」

そう、やはり現実は変わらなかった。「きっと」訪れるだろうその日は、一体いつになるのだろう。

9月に就任した菅首相を含めて、明治から数えた日本の首相は計63人。その中に女性は1人もいない。

それどころか、日本はいつの間にか「女性後進国」と揶揄されるほど、海外に大幅な遅れを取っている。日本の衆院議員の女性比率は9.9%。世界190カ国中167位(10月1日時点)。海外からは30、40代の女性リーダーが誕生したというニュースが続々と聞こえてくるなか「一体なぜ」という疑問が湧いてくる。

10月6日に配信したハフライブでは、菅首相が選ばれた9月の首班指名制度で、1票を投じられた伊藤孝恵議員(国民民主党)、そして「女性首相の誕生を願って」同世代の伊藤議員にその1票を投じた寺田静議員(無所属)の2人をゲストに迎えた。

日本の女性が政治家になることを阻むものは何なのか。
もしくは、女性議員が少ないのは単に「実力の結果」なのか。
どうしたら日本初の女性首相は誕生するのか。

現職の女性議員が本音を打ち明けながら、議論を交えた。

女性が政治家になることを阻む「5つの壁」

寺田静議員(左)、伊藤孝恵議員(右)
寺田静議員(左)、伊藤孝恵議員(右)
HUFFPOST JAPAN

そもそも日本では、なぜ国会議員を目指す女性が少ないのか。育休中の2015年に立候補した伊藤議員は、女性が国会議員になると「5つの壁」にぶつかると話す。

“ 伊藤議員:1つ目は志を立てることの壁。「女が政治家なんか」「母親が子育てをしながら政治家なんて」という世間の声があります。

次に候補者になる壁というのがあるんです。「女性の声が必要だから選挙に出てください」ではなく、「女刺客」とか「一人目が男だから並びで二人目は女」みたいな候補者の立てられ方をする。

3つ目が選挙の壁。「(候補者は)早朝始発から終電まで駅で立て」と言われますけれども、私は選挙に出た時に1歳と3歳の子どもがいたので街宣車の中でおっぱいを絞りながら活動していました。始発から街頭に立ちたい気持ちはあります。でも、(その間に)子どもを誰が見るのかという話がある。そういうようなことが選挙の壁です。

それから我々が今ぶち当たっている両立の壁。早朝からの会議、夜の会合。そこをパスすると幽霊議員になっちゃいますから。

そして最後は2期目の壁。女性が立候補できる年齢って子育てや介護があってそんな心の余裕もありません。また選挙に出るのも、とてもお金がかかります ”

現在7歳と5歳の子どもを持つ伊藤議員と、7歳の子どもがいる寺田議員。そんな二人が、まさに今直面しているのが、家事・育児と議員活動の「両立の壁」だ。

二人は「子連れ出勤」を例に実体験を語る。

次女が保育園に入れず待機児童になってしまった経験のある伊藤議員。地元愛知から両親に上京してもらったり、ベビーシッターを頼んだりしたが、どうしようもない時は議員会館の事務所に子連れで出勤をしていたという。事務所は、ジャングルジムやおもちゃを持ち込んで、「キッズスペース化」した。

しかし、そのことが報じられるや否や「子どもがチョロチョロして議員の仕事ができるのか」「税金で賄われている施設なのにけしからん」「子どもがかわいそう」といった1500件に及ぶ非難の意見が届いたという。

また、こうしたやむを得ない「子連れ出勤」に理解を示さない人は、議員の中にもいるという。寺田議員もこんな経験を語る。

「当選をした時に議員に一人一部屋与えられる議員会館があるんですけれども、あるフロアに子どもがギャーギャー言っていると怒鳴り散らす先生がいるというのを聞いて『そのフロアだけは勘弁してください』ってお願いをして別のフロアにしてもらったということがありました」

「女性活躍推進」を政策として掲げる一方で、家事・育児・介護を女性任せにする「男性中心の論理」で回っているとされる、永田町の旧態依然ぶりが透けて見えるようだ。

こうした現状に対して伊藤議員は「本音と建前の隔たりが深いのが永田町なんだと思います」と苦言を呈し、女性議員を増やすためには「永田町の職場環境を整えること」が欠かせないと訴えた。

女性議員が少ないのは「実力の問題」なのか

Anadolu Agency via Getty Images

女性首相がいないことや、女性議員の少なさを問題に挙げると「実力の結果に過ぎない」といった声も聞こえてくる。

こうした意見に「女性には、本当に平等な機会が与えられているだろうか」と疑問を投げかけたのが、寺田議員だ。

「ある女性コラムニストが『女性は期待値で仕事が降ってくることがない』とおっしゃっているのを読んだことがあります。『そろそろこれぐらいの仕事を任せてみよう』ということが女性は少ない、あるいはないという風に書かれていました。そうかもしれないなと(感じます)」

また、女性が組織の中で出世できないのは、ジェンダーによる「機会の不平等」だけではなく、家事・育児といった「性別役割分業」も背景にあると指摘する。

「研修や昇進の機会が与えられたとしても断る女性もいると思うんですね。それはやる気や意欲がないわけではなく、共働きの家庭の中でまだまだ女性の方に家事育児の負担が大きいということがあると思います。(仕事と家事・育児を)どう両立させていくかと考えた時に、女性が昇進や研修を断らざるを得ないような状況はまだあるだろうと思います」

こうしたジェンダーによる「生きづらさ」を、スキルや努力不足など「自分のせい」と受け止めてしまう女性が多いことにも、課題を感じているという。

「(就職や仕事と育児の両立など)上手くいかないのは私たち女性が悪いわけではなくて、社会のあり方が間違っているからだと私はずっと信じてきました。だから最近、周りの沢山の女性から『上手くいかないのは自分が悪いんだと思っていた』という反応を頂いたのがすごくショックでした」

ジェンダーの不平等が、女性自身への評価や自信も下げているという現実。それが、女性がキャリアで挑戦することを妨げ、女性の生きづらさがなかなか改善していかないことにもつながっている。

女性議員の少なさ、そして女性首相が生まれない背景もここにもある。

「自主的な努力に委ねようというのは上手くいかない」クオータ制の導入を

寺田静議員(左)、伊藤孝恵議員(右)
寺田静議員(左)、伊藤孝恵議員(右)
Miyuki Inoue / HUFFPOST JAPAN

政治の世界で女性が活躍するのを阻んできた永田町の強固な「ガラスの天井」。私たちは、どのように崩していけばいいのだろうか。

議論はクオータ制の導入に焦点が絞られていった。

クオータ制とは一般的に、議席や候補者数の女性の割合を、あらかじめ一定数に定めて積極的に起用する制度のことだ。イギリスやフランスや韓国などが採用している。

フランスは2000年、議会選挙の候補者を男女同数にすることを政党に義務づける通称「パリテ法」を制定。その後、国民議会の女性議員は、1割から4割に増えたという。

寺田議員は「期限付きでいいのでまずクォータ制を取り入れて、(男女の候補者数を)同数にしていくことから始めなきゃいけないんじゃないかなと思います。自主的な努力に委ねようというのは上手くいかないということは証明されていますので、きちんと枠をはめていかなきゃいけないと思います」とキッパリ言い切った。

クオータ制をめぐっては、自民党の下村博文選対委員長(当時)が9月、2030年までに女性比率を3割にするため、候補者の一定比率をあらかじめ女性に割り当てるよう提案した要望書を党に提出している。

伊藤議員は「与党は現職がいるので、その方たちに降りてもらって女性候補者を割り当てるのはなかなか非現実」と述べつつも「本当に真剣にやると決めて動かしていただきたいです」と政権与党の決断に期待を寄せた。

ハフポスト日本版が読者に行ったアンケート調査では「日本では、女性首相が誕生するための仕組みや環境が整っていると思いますか」という質問に対して、259件の回答のうち、約83%が「整っていない」と回答した。続いて「整っていない」と回答した人に「仕組みや環境が整うには、どれぐらいの時間がかかると考えていますか?」と質問すると、半数以上の約52%が「20年程度」もしくは「それ以上」と答えた。

日本に女性首相が誕生するのは、果たして、20年以上も先の未来になってしまうのだろうか。

ハフライブ「なぜ女性首相は誕生しなかったのか」(10月6日配信)のアーカイブはこちら

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