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顔認証は「400万回」。東京2020大会の安全・安心を守った舞台裏

コロナ禍、オリンピック・パラリンピックのセキュリティはいかに守られたのか?All Japanで臨んだ、新たな挑戦。

オリンピックでは約11,000人、パラリンピックでは約4,400人の選手が参加し、9月5日に閉幕した東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。1年の延期を経て開催された世界最大級のメガイベントの警備では、感染症対策という新たな課題と向き合うことになった。この現実と直面し、それでもなお、いかにして選手や関係者の安全・安心を守っていくか――。大会のセキュリティを担った現場では、あらゆる可能性を考え、多くの組織と連携し、多様な対策と最先端の技術が導入されていた。9月に開催されたNECのイベント「NEC Visionary Week 2021」で実施されたセッション「東京2020オリンピック・パラリンピック『安全・安心』の舞台裏」では、東京2020組織委員会の警備を支えたチーフ・セキュリティ・オフィサー 米村氏、警備局長 岩下氏に貴重な話をうかがった。

「想像と準備」を徹底して、万全の警備体制を構築

まさにAll Japanでの取り組みだった。ただでさえ困難を極める世界最大のスポーツイベントの警備だ。そのうえ、COVID-19という新たなウィルスへの対策も徹底しなければならない。東京2020組織委員会のチーフ・セキュリティ・オフィサーとして指揮をとったのは、米村 敏朗氏だった。警視総監をはじめ、内閣危機管理監などを歴任し、長く日本の危機管理に携わってきたエキスパートだ。米村氏は本セッションにビデオメッセージを送り、「想像と準備」という言葉を強調した。

「私はこの警備の完遂に当たって、一つの指針を繰り返し強調してまいりました。『想像と準備』です。これは、私が過去に危機管理の実務を経験し、国内外の様々な事例、とりわけ失敗やその一歩手前の事例を検証するなかで学び、危機管理において最も大切であると痛感してきたことです。至極当たり前のことではありますが、この『想像と準備』の欠如や不足こそが、常に失敗につながっていきます。」

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会チーフ・セキュリティ・オフィサー米村 敏朗 氏
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
チーフ・セキュリティ・オフィサー
米村 敏朗 氏

実際、本大会ではあらゆる可能性を想像して対策がとられた。入場システムにおいて、万が一ネットワークが遮断されたとしても本人確認ができるか。豪雨に見舞われても通信機器を水没から守ることができるか。コロナ禍において入国していただいた方々に対して、どのように接して安全を守っていくか。そして、そのためにどこまでの負担をお願いするか――。考えられる万全の準備を整えて本番に臨んでいった。

では、この指針のうえで、具体的にどのような対策がなされたのか。米村氏は「今回の大会で3つの新機軸が生まれた」と語る。一つは警備JV(Joint Venture)、二つ目は統合映像監視システム、そして三つ目が顔認証技術を使った入場管理システムだ。

警備JVには日本全国から553社にのぼる警備会社が参加した。今大会ではこのJVの警備員に加えて警察官や自衛官が協力し、官民連携した万全の体制を構築している。今大会における最大時の警備員数は約14,000人にのぼり、そのうち警備JVは約11,900人を占めた。十分な体制を確保できたことで、世界初となる最新鋭の車両下部不審物検査装置導入など新しい試みにもチャレンジすることができた。

「最終的に多くの会場で無観客となって警備員の必要人数は減りましたが、当初は最大で1日24,000人に上る人員が必要であると考えられていました。これはそう簡単に準備できる人数ではありません。そこで、先ほど述べたJVに加え、警備員の業務をサポートするものとしてテクノロジーの活用を進めました。」

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会警備局 局長岩下 剛 氏
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
警備局 局長
岩下 剛 氏

安全・安心を支えた最先端テクノロジー

警備員やスタッフの業務を支えるために、AI技術を活用したシステムを納入した、NECの東京オリンピック・パラリンピック推進本部 本部長の水口氏は語る。

NEC東京オリンピック・パラリンピック推進本部 本部長水口 喜博 氏
NEC
東京オリンピック・パラリンピック推進本部 本部長
水口 喜博 氏

「大会運営上の脅威の情報を収集、分析する高度監視制御センター装置を開発しました。事件や事故の発生はもちろん、自然災害や周辺交通情報、SNS上の情報などを総合的に収集し、脅威の影響度や関連情報の相関分析をしながらリスクを可視化していきます。43会場の状況を管理していきました。」

43会場のリスクを可視化した高度監視制御センター装置 画面サンプル
43会場のリスクを可視化した高度監視制御センター装置 画面サンプル

米村氏も言及した顔認証による入場管理は、世界で初めてとなる試みだった。会期中は303台の端末が稼働し、会場入場時の本人確認に利用された。オリンピックでは43万人、パラリンピックで30万人が本システムを利用したものの大きなエラーは起きなかったという。米村氏は「完璧だった」と太鼓判を押し、岩下氏も、その効果を認めた。

「大会を通じ、400万回の顔認証を行ったことが記録として残されております。不具合の報告は受けておりませんので、それくらいの回数の認証については完全に耐えうるものだと認められます。これがもし人間の目による認証であった場合、どうしてもヒューマンエラーが起こってしまいます。これはゼロにはなりません。仮に1%だったとしても、400万回の認証動作があれば、4万回は心もとない認証になってしまうということです。」

東京2020大会で納入した顔認証システム
東京2020大会で納入した顔認証システム
©2021 – IOC/Chung Sung-Jun/Getty Images for NEC - All rights reserved Tokyo 2020

顔認証のメリットは正確さだけではない。大会のゴールドパートナー(パブリックセーフティ先進製品・ネットワーク製品・業務用無線システム)として本システムや最先端の通信ネットワーク機器を提供した水口氏は、その効率性について言及する。

「顔認証システムを使うことで、警備員の方が肉眼で本人確認をするのに比べて約3割から4割ほど速く本人確認をすることができます。これによって、ゲート前の行列を防ぐことができました。今大会で懸念されていた暑さ対策や人の密集防止という観点でも貢献ができたと思っております。」

また、言うまでもなく、顔認証は非接触・非対面という特長を持つ。感染症という問題と対峙することになった今大会にとっては、まさに不可欠なシステムだった。

感染症対策の取り組みは他にも積極的に展開された。

なかでも重要だったのが、スクリーニング検査だ。岩下氏も「今大会の安全・安心の要は検査の徹底だった」と語る。

「スクリーニング検査、いわゆる症状のない方への検査を徹底的に行い、仮に陽性者が出た場合には、速やかに隔離等の措置を行う。これによって感染が広がらないようにするということを大会開始のかなり前から進めてきました。また、今大会に伴う入国者には専用アプリ『OCHA』を通じて滞在期間中の健康管理を依頼していきました。」

加えて、岩下氏が選手に好評だったと語るサービスが「混雑状況可視化システム」だ。

「選手村のメインダイニングの他、混雑が予想される場所5カ所にセンサーを設置し、サイネージや関係者向けのスマートフォンアプリを通じて混雑状況をリアルタイムに配信していきました。各施設の混雑状況を可視化することにより、3密を避けた行動が可能になりました。実際に、これによって密な状況は起きなかったという報告を受けております。大会警備本部からもその様子を確認することができました。」

東京2020大会では、ルールの設定と地道な啓発活動、そして最先端のテクノロジーを組み合わせることで感染症の拡大を防いでいった。

選手村メインダイニングに設置された混雑状況可視化システム
選手村メインダイニングに設置された混雑状況可視化システム

新しい「ONE TEAM」が日本のレガシーになる

米村氏がビデオメッセージで強調した言葉がもう一つある。それは「ONE TEAM」だ。オリンピック・パラリンピックほどの規模のイベントになれば、実に多様な組織と人々が動員され、連携されていく。岩下氏は、今大会では、これまでの日本にはなかったような新しい連携が見られたと述べる。

「私はもともと警察官でありますので、警察と消防の連携が重要であることは十二分に承知しています。しかし、これまで実際にどれほど実現できていたかというと、なかなか心もとないものがありました。しかし、今回は同じ組織委員会の警備局に警察官と消防士、さらには海上保安官や自衛官らが集まり、同じ組織のなかで動いていきました。今大会を経て実現した新しい連携体制でした。」

新しい連携が生まれた場所は、警備局内だけではない。岩下氏は続ける。

「国と東京都間の連携も、非常に新しいものになったと思います。コロナ対策調整会議では国と組織委員会と都の三者が膝をつけあわせて、深い議論を何度も繰り返してきました。東京都と国がここまで対等な立場で真っ向から議論を交わすような例は、これまで存在しなかったのではないでしょうか。今後も国と都が連携して新しい価値を生み出していくための良い機会になったのではないかと思います。

また、官民の連携も同様です。私と水口さんの関係も、もう6年近くになります。警察官と企業の社員の方が率直に議論し、ときには互いにダメ出しをし合いながら大会成功に向かって取り組むという経験は、今後にもつながる貴重なものとなりました。」

東京2020大会の警備では、日本にこのような新しい組織間連携を各所で生み出し「One Team」化が進められていった。岩下氏も「このような新しい連携こそが、今大会の最大のレガシーではないか」と語る。

高い評価を得た今大会の経験や新しい連携を活かし、今後どのように生かしていくか。私たちの社会は、東京2020大会を終えて、また新しいスタートラインに立っているのかもしれない。

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