「ものは壊れても歌は残り続ける」子どもとアカペラグループが作った歌の力で、西日本豪雨の被災地を元気に。

人を支え、支えてもらうことの喜びを、クラウドファンディングを通じて発信したい
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2018年7月の西日本豪雨で被災した愛媛県西予市野村町の子どもたちが、アカペラグループINSPi(インスピ)のリーダー、杉田篤史さん(40)らと一緒に「のむらのうた」を制作した。歌詞には、町の楽しい記憶や復興支援への感謝の気持ちなどを込めた。歌を発表するコンサートを開くため、杉田さんが理事を務めるNPO法人「TOKYO L.O.C.A.L」が中心となって、クラウドファンディングで支援を募っている。

野村町は酪農や養蚕を通じて発展してきた町で、「ミルクとシルクのまち」とも呼ばれる。山に囲まれた自然豊かな地区だが、西日本豪雨では川が氾濫し、5人が亡くなった。濁流は商店街や住宅街にも流れ込み、多くの住民が避難生活を強いられた。

豪雨被害
豪雨被害
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INSPiは「日立の樹」のCMソングを歌っていることでも有名なアカペラグループ。杉田さんは個人的に「hamo-labo」(ハモラボ)の名前でハーモニーのワークショップも手がけている。昨夏、地域活性化に取り組む愛媛大学社会共創学部の羽鳥剛史准教授と共同で活動を始めた矢先に豪雨災害が起きた。

復興のために何ができるか――。

野村町の人たちと打ち合わせをしていく中で、杉田さんが思い出したのは、東日本大震災で被災した岩手県陸前高田市の中学校へ行った2012年のコンサートのことだった。INSPiのメンバーと一緒に歌い終わった後、中学校の生徒会長が「自分たちの校舎は津波で流されてしまいましたが、学校の校歌は残っています。校歌を歌うことによって、中学校の生徒なんだと思い出すことができるんです」と言って、校歌を歌ってくれたという。

「ものが壊れたとしても、歌は歌い続けることでずっと残っていく。歌にはそういう力があることを気づかせてもらいました。野村町の子どもたちも、故郷が豪雨で悲しいことになってしまったけれども、改めて楽しい思い出に塗り替えられるようにしたい」

杉田さんは子どもたちと一緒に「のむらのうた」を作ることを提案。東日本大震災以降、被災地の復興支援に取り組んできた「TOKYO L.O.C.A.L」代表理事の丸山慎二郎さん(43)にも協力を呼びかけた。

アカペラグループINSPi(インスピ)のリーダー、杉田篤史さん(左)と「TOKYO L.O.C.A.L」代表理事の丸山慎二郎さん(右)
アカペラグループINSPi(インスピ)のリーダー、杉田篤史さん(左)と「TOKYO L.O.C.A.L」代表理事の丸山慎二郎さん(右)
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昨年11月、歌をつくるためのワークショップを開催。地元の野村小学校の合唱部を中心とする約40人の子どもたちと意見を出し合い、「豪雨のとき、いろんな人から励まされて元気が出た。そのお礼の歌にしたい」というコンセプトが固まった。サビの部分の「がんばってみるけん 応援してやなぁ~」というフレーズは、方言のイントネーションも生かしてその気持ちを曲に乗せた。

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歌詞には、「マメヅタ集めた桂川」「ほわいとファームのソフトクリームがいに(うまい)」「乙亥大相撲に出る前の日 歯を磨きながら 10分くらい考える」など、子どもたちの地元での思い出が次々と登場する。歌った子どもたちは「今はできなくなってしまっていることもあるけど、こうして歌にしてみんなで歌えることが嬉しい」と話していたという。

今年1月末に地元であった復興祈願のイルミネーション点灯式では、野村小学校の合唱部が「のむらのうた」を初披露した。

3月2日には野村小の体育館で、より多くの人に向けて歌を発信するコンサートを開く予定だ。合唱部の子どもたちと杉田さんに加え、INSPiの他のメンバーの出演も決まりつつある。また、野村町の風景を収めたミュージックビデオもつくり、ネットで見られるようにするほか、TOKYO L.O.C.A.Lの拠点、東京都荒川区でのイベントでも上映するつもりだ。

「小学校の学年発表会で、『のむらのうた』を歌いたいと言ってくれている学年があるそうです。町の人や子どもたちに歌い継いでいってもらえる歌になったらうれしい。野村町で歌を作ったことを人に話すと、『西日本豪雨のときに愛媛も被害が出たんだね』と言われることがあります。TOKYO L.O.C.A.Lは大きな組織じゃないけど、自分たちが活動することで、知らない人にも愛媛のことが伝わって良かったなと思います」

杉田さんは神戸出身で、高校生のときに阪神大震災を経験したことが原点にあるという。

「あのときは避難所にも行き、日本全国から助けてもらいました。『何かあったときに自分ができる形で返していきたい』とは、ずっと感じてきました。人を支えること、人に支えてもらうことは、人間ならではの喜びだと思うんです。僕は自分の喜びとして、『のむらのうた』をつくったし、クラウドファンディングを通じて、この喜びを多くの人たちに知ってほしい。多くの人たちのサポートが集まることによって、野村町の人たちがもっと元気になっていってほしいと思っています」

クラウドファンディングによる支援は2/22まで。詳細はこちら

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(伊勢剛)

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