国にパスポートを“奪われた”記者・常岡浩介さんは訴える 「このままでは世界の状況を見る視野を失ってしまう」

「これが許されると、人道や医療に関わる人が現地に行くことも国から妨げられることに...『ジャーナリストだけの問題ではない』」
パスポートのイメージ写真
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kyoshino via Getty Images

海外取材をするジャーナリストにとって、パスポートを奪われることは、筆を奪われることと等しい。国がパスポートを取り上げる―そんな報道の自由を制限するような事態が起きている。

ジャーナリストの常岡浩介さんは中東での取材経験が豊富なフリーの報道記者。2019年2月4日、イエメンでの取材を予定していたが、外務省より旅券返納命令があり、出国できなくなった。常岡さんは、4月に国を相手に命令の取り消しを求めて東京地裁に提訴した

旅券返納命令取り消し訴訟に関して呼びかけを続けてきた早稲田大学非常勤講師で元上智大学教授の田島泰彦さんと常岡さんが、ジャーナリストの堀潤さんが司会を務めるネット番組「NewsX~8bitnews」5月13日放送に出演し、経緯と現状について語った。

田島泰彦さん(左)と常岡浩介さん(右)
田島泰彦さん(左)と常岡浩介さん(右)
ハフポスト

そもそも、今回の旅券返納命令は「不可解なことだらけ」と2人は言う。

常岡さんは2月、羽田空港の出国審査場の自動化ゲートを通ろうとして、そこではじめてパスポートの返納命令が出ていたことを知らされた。

常岡さんは2019年1月、オマーンで入国を拒否され強制送還されていた。外務省からの旅券返納命令書では「オマーンにおいて入国を拒否され、同国に施行されている法規により入国を禁止されているため」との理由が記載されている。

しかし2月の渡航では「オマーンに行こうとはしていなかった」と常岡さん。

「(自分が)入国拒否されたオマーンに再入国しようとしていて、それがオマーンの迷惑になってはいけないので再入国をさせないというならまだわかるが、オマーンに行こうとしていないのに(旅券を)奪っている。」(常岡さん)

それに対し田島さんは「そもそもオマーンの入国拒否自体も不可思議です。ビザを取っているのに拒否されている。背後に日本大使館なり警察なりの影を見ざるを得ません」と指摘した。

さらに、本人には事前の通達がなかった。

「旅券法では、常岡さんのような立場の人には事前に聴聞の機会、弁解の機会を与えなければならないことになっている。しかし外務省はこれらの機会を与えませんでした」(田島さん)

常岡浩介さん
常岡浩介さん
ハフポスト

提訴に関する外国特派員協会での会見で、常岡さんはこう語っていた。

「20年ちょっと、海外の紛争地を中心に取材活動を続けていますが、私自身、そして同業者、戦争をしている地域で活動しているNGO、そういった人たちの状況が少しずつ変わってきているのを感じています。

例えば20年ほど前には戦争を取材するジャーナリストが私が知っているだけでも数十人いましたが、今現在は最前線まで行って取材するジャーナリストは10人以下になってしまった。私自身、家宅捜索を受けたりパスポートを没収されたりということがあるが、私以外のジャーナリストも、意味不明な海外での入国拒否が何人もあった。

支援活動をする団体も、日本でビザを取得しようとすると拒否されるということが相次いでいると聞いています」

常岡さんが危惧するのは、「取材」という行為や報道の仕事が、日本であまりにも重要視されていないという現状だ。記者会見でこうも語っていた。

「日本では、海外でのニュース、特に人道危機が起こっている現場のニュースの絶対量が、世界主要国に比べて極端に少ない。さらに、この状況はどんどん悪化している。これを放置すると、日本人・日本政府どちらにしても、世界の状況を見る視野というものを失ってしまうのではないか」

事実、イエメンは「世界最大の人道危機」が起きていると言われているが、日本のメディアでニュースになることはあまりない。

「日本の報道ではほとんど出ないが、イエメンでは深刻な飢餓が起こっています。あるいはシリアでは虐殺、大規模な作戦が始まっていると言われています。それなのに全く何もできない。気ばかり焦ります」(常岡さん)

旅券返納を命じられたことに関しても、国内よりも海外機関の反響の方が大きかったと、常岡さんは説明する。アメリカの民間団体「ジャーナリスト保護委員会」、フランスのNGO「国境なき記者団」(RFS)などが即座に声明を出した。さらにRSFは5月16日にも、日本政府に強い要求を出した

常岡さんは、日本のジャーナリストの“地位の低さ”について、危機感をにじませた。

「(今回の件を通して)報道の仕事の意義は、認知されていないんだなと自覚する羽目になった。僕らが仕事をしないとニュースは出ません。でもそういう風には一般の人は捉えていない。放っておけば事実は政府か何かが教えてくれる、と間違って認識されているように思います。日々受け取っているニュースに関しても、正しいのか、デマが含まれているのか、おそらく疑問を持たれていないかなと感じました。今回の関心のもたれなさから、僕らがどれだけ重要視されていないかという感触も持ちました。」(常岡さん)

続けて田島さんは、「ジャーナリストだけの問題ではない」と以下のように危惧した。

「もしこれが許されるとなったら、ジャーナリスト以外の様々な活動、人道や医療に関わる人が現地に行くことも、いろんな理由をつけて国から妨げられることになる。こういう社会でいいのか。民主主義と言論の自由そのものが、かなり深刻な事態にある」

こんな民主主義社会でいいのかーー。2人の問題提起を私たちはどう受け止めるべきなのだろうか。

(文:高橋有紀/ 編集:南 麻理江)

堀潤さんがMCを担当する月曜の「NewsX」、次回は5月27日夜10時から生放送。番組URLはこちら⇒https://dch.dmkt-sp.jp/title/tv/Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL2JjLzBjMWQvNWY1OQ%3D%3D

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