【アカデミー賞】黒人差別の歴史を、心揺さぶるスピーチで振り返る

同じ映画を作り上げた仲間と一緒に着席することも許されなかったハティ・マクダニエル。ハリウッドは、黒人差別とどう向き合ってきたのでしょうか。【心揺さぶるアカデミー賞スピーチ・前編】
(左上から時計回りに)、『風と共に去りぬ』で1940年アカデミー賞助演女優賞を獲得したハティ・マクダニエル、『マ・レイニーのブラックボトム』で2021年アカデミー賞主演男優賞にノミネートされている故チャドウィック・ボーズマン、『チョコレート』で2002年アカデミー賞主演女優賞を受賞したハル・ベリー、『野のユリ』で1964年アカデミー賞主演男優賞を受賞したシドニー・ポワチエ(左)
(左上から時計回りに)、『風と共に去りぬ』で1940年アカデミー賞助演女優賞を獲得したハティ・マクダニエル、『マ・レイニーのブラックボトム』で2021年アカデミー賞主演男優賞にノミネートされている故チャドウィック・ボーズマン、『チョコレート』で2002年アカデミー賞主演女優賞を受賞したハル・ベリー、『野のユリ』で1964年アカデミー賞主演男優賞を受賞したシドニー・ポワチエ(左)
Getty

いつの時代も『名作』と表される映画には、私たちの様々な感動を揺り動かす中に、鋭い社会的メッセージが込めらてきたものがたくさんあります。

作り手たちのメッセージもまた然り。レッドカーペットの中で、外で……たくさんの映画人たちが、それぞれの影響力を存分に使いながら、それぞれの問題意識を訴えてきました。

4月25日(現地時間)に行われる、世界最高峰の映画祭「アカデミー賞」授賞式では、オスカーの行方はもちろん、そんな映画人たちのスピーチにも注目です。

社会の写鏡のようなアカデミー賞授賞式の中でも、エポックメイキングだったスピーチを厳選してご紹介します。

初のオスカー受賞も、同じテーブルにつくこともできなかった『風と共に去りぬ』のハティ・マクダニエル

映画『風と共に去りぬ』より
映画『風と共に去りぬ』より
Silver Screen Collection via Getty Images

2020年にアメリカを震源地として吹き荒れたBLMムーブメント。ハリウッドは黒人差別とどう向き合ってきたのでしょうか。

アフリカ系俳優として初めてオスカーを手にしたのは、1940年に『風と共に去りぬ』(39)で助演女優賞を獲得したハティ・マクダニエルです。

人種隔離政策が行われていた当時のアメリカで、マクダニエルは授賞式の会場となったホテルには特別に入場できたものの、『風と共に去りぬ』チームと同じテーブルに座ることは許されず、広い会場の最後列に席が用意されたそうです。

マクダニエルは喜びを爆発させることなく、「人生で最も幸せな瞬間です。私の人種と映画界に恥じない存在であり続けようと心から望んでいます。胸がいっぱいで、言葉になりません」と短く静かに語りました。

『風と共に去りぬ』は、2020年のBLMのうねりを背景に、アメリカの動画配信サービス「HBO Max」が配信を一時停止したこともありました。

現在は、過去の偏見を消し去るのではなく、「より公平公正で包括的な未来を築くために、まず歴史を認め、理解しなければいけない」(HBO Max)と本編開始前に約4分半の解説動画を付けた上で配信されています

黒人受賞者の頬にキスが物議

黒人男性で初めてのオスカー受賞は、1964年に『野のユリ』で主演男優賞に輝いたシドニー・ポワチエです。涙を堪えながら「ここまで長い道のりだった」とスピーチ。ただ、プレゼンターの俳優アン・バンクロフトが頬に軽いキスをしたことが、保守層の間でスキャンダルに受け止められました

スタンディングオベーションで祝福されたハル・ベリーの号泣スピーチ

1990年にはデンゼル・ワシントン(『グローリー』で助演男優賞)も続き、2002年には、ついにハル・ベリーが『チョコレート』で主演女優賞を獲得。号泣しながらのスピーチに、会場はスタンディングオベーションで応えました。

今では信じがたい扱いを受けたハティ・マクダニエルの受賞から60年あまり。

スピーチの内容も会場の雰囲気も当時とは大きく異なる中、ハル・ベリーが「この瞬間は、わたしだけのものではありません、もっとずっと大きな意味があります」と涙ながらに語ったスピーチは今も数ある名場面として語り継がれています。

「この瞬間は、すべての有色人種の女性たちのためにあります。今日、やっとチャンスの扉が開いたんです。ありがとう。とても光栄です」

「#OscarsSoWhite」という抗議

2016年には、アカデミー賞の演技部門にノミネートされた20人が2年連続で全員白人だったことからSNS上で「#OscarsSoWhite(オスカーは真っ白だ) 」という非難のハッシュタグが拡散し、スパイク・リー監督らが授賞式をボイコットする動きも。

「#OscarsSoWhite(オスカーは真っ白だ) 」のハッシュタグは、『パラサイト』が躍進した2020年のアカデミー賞でも再燃します。

この年、黒人のノミネートはたった1人で、『パラサイト』も俳優陣は誰も演技部門にノミネートされませんでした。

前年の2019年には、スパイク・リー監督が、ヘイトクライムなどの人種差別問題に揺れる現代のアメリカを痛烈に風刺した『ブラック・クランズマン』で脚色賞で念願のオスカーを獲得。「400年にわたって、私たちの祖先はアフリカから盗まれ、バージニアに連れてこられ、奴隷にされました」と自身のルーツに触れたスピーチも話題となりました。

映画界はBLMにどう応えるか?

2021年のアカデミー賞では、故チャドウィック・ボーズマン(『マ・レイニーのブラックボトム』)をはじめ、黒人の俳優も複数ノミネートされています。

一方で、90年以上におよぶ長い歴史の中で、監督賞を受賞した黒人は1人もいません。

2021年4月25日に行われる授賞式は、2020年5月にジョージ・フロイド氏が白人警官に首を膝で押さえつけられて亡くなったのを機に広がった「Black Lives Matter」(BLM)ムーブメントから初めてのアカデミー賞授賞式です。

ハリウッドからも、『スター・ウォーズ』シリーズに出演した俳優のジョン・ボイエガが「差別されることがどれだけ辛いことなのか、わかってほしい。こんなことはもう終わりにしよう。もう待たない」とBLMに連帯。ルーカス・フィルムもこれに支持を表明しています。

アカデミー賞では、何か付随したメッセージが発信されるでしょうか。

前哨戦とされる第78回ゴールデン・グローブ賞では、87人の選考メンバーに黒人がいないことが問題視され、映画監督や俳優らも「#TimesUpGlobes」というハッシュタグで、批判や変化を促す動きが広がりました。

これを受け、ゴールデングローブ賞は「黒人会員に加え、他の過小評価されている背景を持つ会員も参加する必要があることは理解しており、これらの目標をできるだけ早く達成するため、直ちに取り組みます」とコメントを発表。

少しずつではありますが、映画界も内外の声に押されて変化を続けています。

身近な話題からSDGsを考える生番組「ハフライブ」。4月のテーマは、アカデミー賞とSDGsです。「社会や政治を映す鏡」であるアカデミー賞は、2021年という時代をどう映すのか。授賞式直前に、アカデミー賞の「新しい見方」をお届けする60分間です。詳細はこちら。

・配信日時:4月22日(木)夜9時~

・配信URL: YouTubehttps://www.youtube.com/watch?v=Pn_j-eRk5uA

・配信URL: Twitter(ハフポストSDGsアカウントのトップから)https://twitter.com/i/broadcasts/1dRKZNgpYBQKB

(番組は無料です。時間になったら自動的に番組がはじまります)

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