「中国恒大」問題とは?9兆円超す有利子負債を抱える巨大企業、破綻したらどうなる【一から解説】

「利益は吐き出すものの消化可能な数字です。金融システムに異常が出るとは思えません」(専門家)

ロビーに詰めかけた大勢の投資家たち。あちこちから「金を返せ」と怒号が鳴り響くー。

そんな光景が繰り広げられたのは、中国広東省深セン市にある不動産大手「中国恒大グループ」本社だ。

中国の不動産バブルに乗り、積極的な投資攻勢で成長。海外の有力選手も所属したプロサッカーチーム「広州恒大」など手広く事業を拡大したが、日本円にして9兆円を超える有利子負債を抱え、経営難にあえぐ。

なぜ中国不動産業界の雄は苦しんでいるのか。

過熱した不動産バブルはついに崩壊したのか。

破綻が起きた場合、どんな事態が待っているのか。

専門家への取材を元に一から解説する。

中国恒大グループ本社前で座り込む女性
中国恒大グループ本社前で座り込む女性
NOEL CELIS via AFP via Getty Images

■投資攻勢で成長

恒大グループは1996年に中国・広州市で創業した不動産開発大手だ。

中国では日本と違い、土地はすべて国が所有することになっている。

国は地方政府を通じて恒大のような開発業者などに土地の「使用権」を販売し、業者がマンションなどを建設。土地の使用権と建物の所有権をセットにして個人や企業へ売るのが一般的な流れだ。地方政府にとってみれば、この使用権を売り払った収入が貴重な財源になっている。

恒大はいわゆる不動産バブルに乗り、銀行などから融資を受けて積極的な投資を続け、2020年には中国物件販売面積で第2位となった。

金の元手は銀行からの借り入れだけではない。資産運用商品である「理財商品」も販売した。「理財」とは中国語で資産運用を指し、中国恒大に金を貸す代わりに得た債権を金融商品化したものだ。一般的には短期間で償還され利回りも高いものが多い(つまり、上手くいけば短期間で割りの良い儲けを得られる)とされるが、元本が保証されないものもある(大和証券)。

恒大は投資の対象を不動産事業以外にも広げる。電気自動車やヘルスケア、それに映画制作や日本のサッカーファンにも耳馴染みのある「広州恒大」などだ。創業者の許家印(きょ・かいん)氏はアメリカの経済誌Forbes(中国語版)の長者番付で中国トップに輝いたこともあった。

中国恒大グループ本社(広東省深セン市)
中国恒大グループ本社(広東省深セン市)
NOEL CELIS via AFP via Getty Images

■銀行は不良債権抱えるが...

その恒大は今、負債に苦しんでいる。発表によれば、有利子負債(利子をつけて返すべき負債)は約5718億元(9.7兆円/21年6月末時点)まで膨らんでいる。

その理由はなぜか。過熱した不動産バブルが弾け価格が暴落したのかといえば、そうではない。

中国の不動産市場は活況だった。新型コロナ対策の一環として、政府が金融緩和(市場に出回る金を増やす効果がある)をすると、投資マネーが不動産市場に流れ込み、コロナ禍にあえぐ中国経済全体の成長を支えた。

一方で中国政府は「住宅は住むものであり、投機の対象ではない」というスローガンを掲げている。元は習近平国家主席の言葉だ。

そこで、不動産投資を抑制する政策を相次いで打ち出しているのだが、依然としてバブルは崩壊していない。政府が15日に公表した統計によると、今年1月から8月までに不動産投資に流れた金は、前の年と比べて10.9%増加。住宅価格自体も、伸び率こそ鈍化しているが上昇しているのだ。

「住宅はよく売れている状況です。政府の価格抑制策が悪い方向に影響したとか、バブル崩壊といった構図ではありません」中国経済に詳しい大和総研の齋藤尚登・主席研究員はそう指摘する。2015年12月から、中国の住宅価格の平均値は一度も下落していないという(70都市/対前年同月比)。

大和総研の齋藤尚登・主席研究員(2020年3月撮影)
大和総研の齋藤尚登・主席研究員(2020年3月撮影)
Fumiya Takahashi

では、苦境の原因はどこにあるのか。

「恒大は電気自動車など幅広い事業に手を出しましたが、膨大な初期投資が必要でした。その資金を銀行やノンバンク、海外で社債を発行することで得たのですが、その後始末に困っているのが現状です。“野放図に事業を拡大させた巨大民営企業がデフォルトを起こしそう”。それ以上でも以下でもないと思います」

デフォルトとは債務不履行のこと。利息をつけて返すべき金が払えなくなったり、遅れたりすることで、齋藤さんは「そうなる可能性は高い」と分析している。

今回の問題で注目されているのは、中国政府の対応だ。国内屈指の不動産大手が経営破綻などに追い込まれた場合、国内経済全体への影響が危惧される。政府として救済措置を取るかどうかは焦点の一つだ。

「安易には救わないと考えます。元はと言えば放漫経営が招いたものですし、経営方針の誤りからデフォルトが起きるということ自体はどこにでもあります。その度に政府が助け舟を出せばモラルハザード(危機意識が薄れること)になります。デフォルトをしたら投資家が責任を被るのは当然で、(政府に)損失補填を求めるのはおかしい。ハイリスク・ハイリターンなものに投資するということは、そういうことです」

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erhui1979 via Getty Images

しかし、仮に経営破綻などに至った場合、その影響は中国経済全体に広がることはないのだろうか。例えば恒大に金を貸し付けている銀行が多くの不良債権(約束通りの金が支払われず、価値が低下した債権)を抱え、影響が波及することはないのか。

「例えば銀行を見れば、2020年の中国銀行全体の純利益は1.9兆元です。対して恒大の有利子負債は5700億元で、この中には(銀行が貸主ではない)社債なども含まれます。銀行からすれば、純利益の数割かは吐き出すものの消化可能な数字です。金融システムに異常が出る(金融危機などに陥ること)とは思えません。銀行のウエイトが大きい上海総合株価指数の動きを見ても、マーケットは恐ろしい事態の予兆だとは捉えていません」

しかしその一方で、恒大1社だけの問題とも言えなさそうだ。例えば、不動産価格は下落リスクに晒される。また、負債率の高い他の不動産開発業者も資金調達がより難しくなる可能性もあるという。

中国で進む不動産開発(山東省/2020年)
中国で進む不動産開発(山東省/2020年)
Barcroft Media via Getty Images

「恒大は不動産を値下げして“投げ売り”していると聞きます。それが価格全体に波及することはあり得ます。しかし、大幅な下落が数年続く事態は避けるべきですが、中国では収入の増加よりも早いペースで住宅ローンの負担が上昇していますから、下がること自体は悪いとは言い切れません」

さらに海外の投資家らが保有する米ドル建ての債権についても「デフォルトリスクは高い一方で、過大に受け取る必要はありません。リーマン・ショックのような時代を変えてしまうようなイメージは全くありません」と指摘した。

恒大は13日の声明で破産や再編を「全くのデマ」と否定した一方で、「未曾有の危機にある」と認めた。今後は、負債を減らすために資産の売却などが加速する見込みだ。

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