PRESENTED BY JICA

「足りない」「摂りすぎ」が混在する栄養問題。アンバランスな課題に挑む、マルチセクトラルアプローチとは?

ホラン千秋さんと世界の現場で活躍するJICAメンバーが出演したライブ番組。ソロモン諸島の事例から、栄養問題への解決策を学びました。
HUFFPOST JAPAN

「栄養問題」と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?

食料の入手困難などで栄養が足りない状態、「低栄養」を想起する人が多いでしょう。しかし、実際は開発途上国を中心に、「過栄養」の問題も、世界では深刻化しています。炭水化物や塩分の摂りすぎなど偏った栄養が続くと、生活習慣病を引き起こしてしまうのです。

「足りない」と「摂りすぎ」が混在する、アンバランスな「栄養問題」をどのように解決することができるか学ぶべく、ハフポストは11月16日にライブ番組を配信しました。

ゲストにホラン千秋さんを迎え、野村真利香さん(JICA人間開発部 国際協力専門員) 橋本謙さん(元・JICAプロジェクト専門家 / 国際保健コンサルタント)が出演。さまざまな地域で、栄養問題の解決にあたってきたJICAのお二人が語る世界の現状に、ホランさんも興味津々です。

世界で深刻化する「低栄養」「過栄養」、そして「見えない飢餓」

「栄養」は、SDGsの目標のほぼ全てに関わるテーマ。SDGs達成のためには、栄養問題の解決が必要不可欠と言えますが、その問題は複雑で、深刻化しているという現状があります。

世界の5歳未満児死亡のうち、実に45%が低栄養に関係している一方で、途上国を含めほとんどの国では子どもの過栄養も問題となっています。低栄養だけでなく、過栄養も併せて抱えている状況を、野村さんは「栄養不良の『二重負荷』」と説明しました。

野村真利香さん(JICA人間開発部 国際協力専門員)
野村真利香さん(JICA人間開発部 国際協力専門員)
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「低栄養と過栄養は今や、同じ地域、同じ国、同じ世帯の中でも混在しています。親は痩せているけれど、社会経済の発展で加工食品ばかりを食べるようになり、子どもが肥満状態、ということも」

「また、お腹を満たすだけの食料は得られるものの、そこにビタミン、ミネラルなどが欠乏していると『微量栄養素欠乏症』と呼ばれる低栄養状態になってしまいます。これらは『見えない飢餓(Hidden Hunger)』とも呼ばれ、世界では、こうした複数の栄養問題が深刻化しているんです」

ホランさんからは、「問題の根本は、栄養に関する知識不足?」という質問が。これに対し野村さんは、「それもありますし、知っていても行動に移せない、という場合もあります。いかに行動してもらうかが大事ですね」と答えました。

栄養問題は、このように地域ごとに原因も状況もさまざま。その問題を、JICAは「マルチセクトラルアプローチ」という手法で解決に導いてきました。

「ご飯の上にインスタントラーメン」ソロモン諸島の食事情

そのアプローチが実践されたのが、「ソロモンヘルシービレッジ推進プロジェクト」。橋本さんは、プロジェクトの一員として現地で活動してきました。

ソロモン諸島は、南太平洋に浮かぶ自然豊かな島国で、海の幸、山の幸など豊富な食材に恵まれています。

ソロモンヘルシービレッジ推進プロジェクト対象地域(ガダルカナル州フラヴ村)の海。
ソロモンヘルシービレッジ推進プロジェクト対象地域(ガダルカナル州フラヴ村)の海。
JICA提供

しかし、1980年代ごろから社会環境や生活様式が大きく変化し、米、小麦、砂糖、塩、インスタント麺、炭酸飲料、スナック菓子など、それまでの食文化にはなかった安価な加工食品の輸入が増えました。

その結果、国民の約6割が過栄養、全死亡の約7割が心血管疾患や糖尿病などの生活習慣病が占めるという事態に。当然、政府にとっても栄養問題の解決は最重要課題でした。

イモが主食の、ソロモン諸島の伝統的な料理の風景。「バナナだけでも100種類以上ある」と橋本さん。
イモが主食の、ソロモン諸島の伝統的な料理の風景。「バナナだけでも100種類以上ある」と橋本さん。
JICA提供

現地の豊かな食文化に触れる一方で、村民たちが加工食品を愛好する様子も目の当たりにした橋本さん。ホランさんが、「プロジェクトが始まる前まで、皆さんの中で栄養に対する意識はどの程度だったのでしょうか?」と質問すると、橋本さんは「かなり低かったんです」と振り返ります。

「人気だったのが、白いお米にインスタントラーメンをかける食べ方でした。日本でも学生がよくやっていますよね(笑)。安く、お腹が膨らめばそれで良い、という考え方なんです。でも、保健センターに行くと糖尿とか血糖値が高いとか言われてしまう。食べ物が健康を害しているという “因果関係” がわからない、というところからのスタートでした」

橋本謙さん(元JICAプロジェクト専門家 / 国際保健コンサルタント)
橋本謙さん(元JICAプロジェクト専門家 / 国際保健コンサルタント)
HUFFPOST JAPAN

自分の身長、体重を知らないと、何が起きる?

ブログで紹介する「お弁当」が話題のホランさんは、「お昼は脂質が多かったから夜は食物繊維を多めにしようとか、全体でバランスを取るようにしています」と語ります。

確かに、日本に暮らす私たちは生活の中で、「今日は野菜が足りなかった」「外食が続いてしまっているな」などと食事を振り返り、意識的に栄養バランスを保っています。

ホラン千秋さん
ホラン千秋さん
HUFFPOST JAPAN

しかしソロモン諸島では栄養状態の把握以前に、そもそも村や学校で身体測定をするという習慣がなく、自分の身長・体重を知る村民はほとんどいませんでした。

健康推進員による身体測定の様子。
健康推進員による身体測定の様子。
JICA提供

野村さんによると、世界には「自分の生年月日がわからない」という地域もあるそう。

「子どもの成長・発達を見るために『成長曲線』というものがあって、これは月齢によってカーブ上の基準値が違います。正常な発達をしているか、栄養不良ではないかの判断材料として、こうしたデータが必要になってくるんです」

「確かに、傾向がわからないとどう対策していいのかわからないですもんね」とホランさんも納得の表情。

JICAは村民の中からボランティアの「健康推進員」を育成し、彼らが主導して疾病予防につなげられるよう研修をおこないました。

村民の固定観念を変えた「家庭菜園」

村民たちに葉野菜を食べる習慣が少なかったことも、大きな問題でした。「畑は家から遠いもの」というのが常識だった村民たちに、家の近辺で手軽に始められる家庭菜園を推進し、ソロモン諸島の農業省と連携した有機肥料づくりの実習もおこないました。

家庭菜園の実習の様子。
家庭菜園の実習の様子。
JICA提供

また、マラリアなどの感染症も下痢の症状が出ることで低栄養につながるため、住居や水道など衛生環境を整備し、手洗いの啓発もおこないました。

このように、教育、保健、水・衛生、農業といったさまざまな分野から問題の解決を図っていく手法が「マルチセクトラルアプローチ」です。これには国・政府、国際機関、大学、NPO・NGO、市民社会などさまざまなパートナーの協力も必要となってきます。これを「マルチステークホルダーアプローチ」と言います。複数の要素が絡む栄養問題を解決するためには、このように横断的かつ長期的に取り組むことが重要なのです。

JICAが世界各地で取り組んできたマルチセクトラルアプローチ(内側の円)と、それを可能にするマルチステークホルダー(外側の円)。
JICAが世界各地で取り組んできたマルチセクトラルアプローチ(内側の円)と、それを可能にするマルチステークホルダー(外側の円)。
HUFFPOST JAPAN

その結果、「ソロモンヘルシービレッジ推進プロジェクト」対象地域では、健康意識が高まり、多くの村民の血糖値が低下。路上や学校などの整備が進み衛生面でも改善が見られたそうです。

「プロジェクトの成功が話題になり、ソロモンの他の地域でも、同様の取り組みがおこなわれています」と橋本さん。プロジェクト終了後も、ソロモンでは栄養問題解決への取り組みが持続的に広がっています。

日本で生きる私たちにも、他人事ではない?

日本は、戦後の食糧難の時代から国をあげて学校給食の普及、食育をはじめとしたさまざまな栄養改善の取り組みをおこなってきた実績があり、栄養への意識はかなり高いとされています。「栄養先進国」と言っても過言ではない、と野村さんは語ります。

「そんな日本がホストとなって、2021年12月『東京栄養サミット2021』が開催されます。栄養問題の解決を加速させる重要なメッセージを、日本から世界に向けて発信する場です」

ホランさんもこれを機に、日本に暮らす私たちも食生活を振り返ってみても良いのでは、と指摘。

「加工食品って私たちも大好きだし、あの美味しさを知ってしまったら知らないことにはできないじゃないですか(笑)。だから、それを “どう” 摂取していくのかが大事ですよね。

「『今日は出来合いのものを買おう』『外食をしたい気分だな』という日もあるので、栄養バランスを自分でコントロールできない部分もあると思うんです。栄養問題を知ることは、自分の生活をもう一度見つめ直す、良いきっかけになるかもしれないですね」

世界の栄養問題を「マルチセクトラルアプローチ」で解決してきたJICAは、日本から、その取り組みを発信します。

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▼JICAホームページ「東京栄養サミット2021」特集ページはこちら

▼外務省ウェブサイト「東京栄養サミット2021」の情報はこちら

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(編集:福原珠理 / HuffPost Japan 文:清藤千秋)

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